「ついやってしまう」体験のつくりかた を読んだ
動機
会社の同期に借りたまま 7 年間本棚で眠っていた本。ゲームの企画書作りに行き詰まっていたので、藁にもすがる思いで読み始めた。
はじめに
鼻と指の絵が書いてある。鼻に指を突っ込みたくなる。任意の行動を起こしたくなる、このように「心」を動かすものを体験と呼んでいる。この体験をデザインする方法について書いていくと宣言されている。
第一章 直感のデザイン
スーパーマリオブラザーズの体験デザインを分析している。スーパーマリオブラザーズの 1 - 1 ステージのスタート地点に降り立った瞬間のスナップショットが描かれている。この場面では、プレイヤーが右に進みたくなるような仕組みが凝らされている。マリオは右を向いており、画面の少し左側に位置している。また、雲や草むらが画面右手に存在している。
この仕組みに従い、右に進むとクリボーが出てくる。この時のプレイヤーの心情は「嬉しい」だそう。プレイヤーは右に行くのが正解かどうか分からないまま、とりあえず右に進んだ結果、状況に進展がある。つまり、自分の仮説は正しかったという成功体験を得られる。この時の心情の流れは、
仮説 -> 試行 -> 歓喜
とのこと。この一連の成功体験を経ることで、プレイヤーは「右へ行けばいい」ということを深く信じる。人間は自分で学び得たことは、一生否定できないほどに深く信じる ようだ。これが、直感のデザイン。そして、この直感でわかるものはもはや 面白い のだそう。
右へ行きたくなる仕組みとして、UI も寄与している。例えばゲームコントローラーには明らかに右へ行けそうな十時スティックの右ボタンが存在している。
ゲームは面白いから遊ぶのではなく「つい思いついちゃった、ついやっちゃった」から遊ぶのだそう。
また、この直感のデザインを成功させるには体験は シンプル であるべき。難解なものはそもそもすぐに飽きられて遊ばれない。また、難解なものは誰でも思いつけるが、シンプルなものを思いつくのは非常に難しい。
また、ファイヤーフラワーやキノコ、スターなどのアイテムの提供方法にも工夫がある。序盤のうち、つまり 2 ステージに到達するまでに全て登場させるのだ。
これは 初頭効果 というものがあり、最初の方が効率良く学習ができるという効果を狙ったものらしい。
また、次にゼルダの伝説 時のオカリナの話が出てきた。初めドアの前にある蜘蛛の巣をどうにかしないとドアを出られない仕掛けになっている。
この際に、手持ちの木の棒と火のついた燭台がある。ここで重要なのは「木は燃える」という経験に基づいた周知の事実。つまり、自分の経験から得られている事実から体験をデザインすることもできる。
まとめ
直感のデザインは下記のそれぞれのゲームでは別のものが使われている。
- マリオは、人々に共通する脳や心の性質を利用している
- ゼルダは、人々に共通する記憶を利用している
また、ゲームが面白いから遊ぶのではなく
- プレイヤー自身が直感する体験が面白いから遊ぶ
第二章 驚きのデザイン
ドラクエは非常に複雑なシステムが存在し、またシリアスな物語が存在する。その中であまりにも異質な「ぱふぱふ」の存在。なぜ必要なのか。
どれだけ直感のデザインを積み重ねていても、同じような刺激が繰り返されるとは反応が必ず弱まっていき、疲労と飽きが来る。この脳みその状態を完全に裏切って驚かすためのデザインとして利用されている。
仮説 (誤解) -> 試行 -> 驚愕
ただ疑問となるのが、プレイヤーの予想を裏切る方法であれば性的な演出である必要はないのではないか?ということ。これは性などのように人間が本能的に欲するものをモチーフとして利用することで、この驚きが極めて強いものになり得るようデザインされているからである。
このモチーフには 10 種類がある。
- 性
- ときめき
- エッチな感じ
- 食
- 美味しそう感
- 空腹感
- 損得
- お金が欲しい感
- 損したくない感
- 承認
- 認められた感
- 所属している感
- けがれ
- 汚い
- 罪悪感
- 暴力
- 痛い感
- 一方的感
- 混乱
- まちがってる感
- クラクラ感
- 死
- 死に近付く感
- オカルト感
- 射幸心と偶然
- 賭けている感
- 祈っている感
- プライベート
- 恥ずかしい感
- 秘密感
このように人間が本能的に欲するものや目を背けるものが並んでいる。このようなものを取り入れて、直感のデザインに驚きのデザインを織り交ぜる 必要がある。
まとめ
- 疲れや飽きをごまかすためには適当なタイミングで驚きのデザインを取り入れる
- それによってユーザーを裏切る必要がある
- また驚きのモチーフは人間が本能的に欲するものや目を背けるような強烈なものであるべき
第三章 物語のデザイン
The Last of Us と 風ノ旅ビト を例に挙げている。
- The Last of Us: 映像と登場人物のセリフのみ
- 風ノ旅ビト: 映像のみセリフすらない
物語にとって文字は必須ではない。
本には絵が 3 つ並べてある。脳はそれを見て、絵と絵を関連づけようとする。つまり 脳は常に全体像を把握したがる臓器 だということ。五感と自分の経験を元に、目の前で起こっていることは何なのかを理解しようとする。
それぞれのゲームの序盤のシーン構成を見ると、情報量と受動性/能動性これら二つの要素で波形を描いていることがわかる。
- ムービー: 情報量多い。受動的。
- 探索: 情報量は中程度。受動性/能動性も中程度。
- 戦闘: 情報量は少ない。能動的。
これらの要素を織り交ぜて、テンポとコントラスト で波を作る。これは波を作ることで驚きのデザインと同様に飽きが来ないようにしている。またこうすることで未来の予測もしやすくなる -> つまり裏切るための地盤が作れる。また、時間軸を超えた理解というのも重要。つまり、波の中で伏線を撒いておくことも重要。
次にプレイヤーを成長させる体験デザインについて。そもそもゲームの中の架空の物語も、プレイヤーを成長させるための手段に過ぎない。
- 収集と反復
例えば 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 9 という文字があると、8 を探したくなる。この収集という体験は、収集を完了するまでプレイヤーは同じ体験を何回も繰り返してくれるため、成長し続けてくれる。
ポケモンはまさにそうで、白紙の図鑑によって全体像と穴を認識させられた状態でモンスターを捕まえる体験を繰り返す。結果として子供達は 151 匹のモンスターを余すことなく覚える。
これはただ収集するだけだと飽きる。そのためにリズムを用いて体験に差分を出したり、緊張感を継続する仕組みにしたり。趣向を凝らす必要がある。
- 選択と裁量
ローリスク・ローリターン / ハイリスク・ハイリターンのそれぞれの要素を用意して、プレイヤーにちょうど良い難易度でゲームを遊ばせる必要がある。あまり本の例がしっくり来なかったが、言ってしまえばタルコフのスカブと PMC だ。
- 翻意と共感
面倒な味方を用意しておき、プレイヤーも主人公も「腹立つなぁ」という同じ方向を向ける。そして、物語を進めていく中でその面倒な味方が死ぬ寸前くらいまで痛めつける。ここでようやく「味方よ...」とプレイヤーと主人公をここでも同じ方向に向ける。
最後に、プレイヤーをスタート地点に戻すというデザイン。そうすることで、体験を通り抜ける前後の自分を比較できるようにするということ。
終章
体験 -> 感情 -> 記憶
この流れが常に人生を突き動かしている。記憶に残っているものは、感情を強く揺れ動かされた体験のはず。
応用
企画する作業。これは考え続ける作業とするのは間違い。
わかりにくいことが問題 -> 直感のデザイン
疲れや飽きが問題 -> 驚きのデザイン
やりがいがないことが問題 -> 物語のデザイン
このように応用する。
企画体験の最大の難点は、無謀なアプローチが不安を生み、疲れや飽きが発生してしまうのではないかという部分。これは驚きのデザインを応用できる。前述の 10 個のモチーフを元に自分の経験からアイデアを断片的に拾い上げていく。
また、これが役に立つかどうかで立ち止まるのではなくまず出し切る。そして、そうすることで自分の興味関心には偏りがあり、それを元に自分にとって本当に大切なものを定義する。